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(ゲーム)夜、灯すの感想

2020/09/22作成
2020/09/23更新

前書き

6月15日の日記に詳しく書いたが「和風伝奇」と「疑似姉妹」という百合の香りに誘われて日本一公式通販限定のパッケージ版を予約購入。

Switch本体を8月8日に購入してからぼちぼち進めて9月21日に全シーン完了。AUTOで音声も飛ばさず読んだよ。プレイ時間はSwitchのマイページを確認した限り15時間以上らしい。最近のADV事情には疎くボリューム感での相対評価はできないのだが、個人的には中だるみもなく丁度良いと思う。

限定特典の小説は未読。それで作品の評価を変えることもないが、その状態での感想である。本編の出来によってはそちらも含めてとは思っていたが、すぐ読もうと思えるほどの熱量にはならなかった。ちなみに特典には小説以外に設定資料集パートもあるが、裏話や決定稿前の髪型とか載っていて一見の価値あり。

総合評価

夜、灯すの感想チャート

グラフィックは良い。テキストは悪くない。可もなく不可もなくという意味で評価はB。

正直期待していた百合要素の部分が肩透かしだったので、悪い点数を付けたくもなったが、最後まで読める文章ではあったし、買って後悔とまでは言うつもりはないので中間で落ち着いた。

ストーリー

ストーリーの詳細な感想。ネタバレ注意青春部活ものとしての側面と怪異に対する謎解きによりそれなりにリーダビリティがあって最後まで読めたのだが、良い物が読めたかと言われると首を傾げたくなる。 肝心の怪異を素直に認められるかどうか。最後まで血とか土地とか霊的な背景が語られることもなく、未練を残して悪霊になったくらいの解釈しかできない。しかし未練が残る理屈が分からない。心中で片方がかろうじて生き残るという筋書きは分かった。直前で裏切ったような記述はないし、結果的に一方が未遂に終わって心中失敗というのは第三者目線の話だろう。生き残った側の未練というなら分かるが、達成した側の未練ってのはどうなんだ?死後で待ってても来ないから現世を確認して知ったとかだと随分カジュアルな死生観だなという気がするのだが。心中前に一悶着あって未練を残したまま死んだ描写には出来ないものか。怪異の原因部分は生者の理屈ではなく亡者の理屈で解釈したいのだが。 後は11幕で校外でも影響力行使できたのはどうかとも思う。地縛霊みたいな分かり易い制限がないとすればやりたい放題できるのでは? 途中の展開も怪異側の意思や意図が提示されないまま、主人公たちだけで現状を分析してこうだと思うで話が進んでいくのはどうにも納得感が薄かった。ヒントとなるのは鈴の夢と日記の文章だがその辺の説明も全く無いんだよな。どういう理屈かは知らないが 真実に近づけようとする正気の小夜子の力添えでもあったのか?でもそれなら正気の小夜子と接点のあった麗子にも日記の文字が見えても良いと思うんだが。 上記は普段はホラーを全く見ない側の人間の感想で、ミステリじゃなくてホラーなんだから細かいことは言わなくてもと思うかもしれないが、納得感が得られるかどうかは大事だろう。理屈を超えた恐怖というものではなく、単に詰めが甘いという印象だ。 また詳しくはホラーの節でも言及するが、ホラー要素が死亡エンドに集中している所も気になる。 終幕の選択肢は真ん中(初回プレイで選んだ奴)が犠牲者がなく事件後も望ましい展開でハッピーエンド、上の選択肢がしこりは残ったが前に進んでいくという展開でノーマルエンドといった風情だが正直ノーマルエンドの方が良い。 ハッピーエンドの方はご都合主義な感じが強過ぎて興醒めしてしまう。部活も順調、皆ハッピーで百合感も薄まった印象だ。最後まで会わずに終わると思っていた小夜子と妙蓮の邂逅も蛇足に思えた。(重ね重ね怪異の存在が都合良く扱われている。本編では最後まで邂逅せず、死後に会えるだろうくらいの含みを持たせるくらいで良かったのでは?) それに比べると、渦中に小夜子と妙蓮の話を消化し、それが外的要因にもなっているためベストな展開とは思わないが、鈴と有華のエピソードで締まるノーマルエンドの方が筋が良く思えたという話である。 まとめると、部活もの、ホラー、百合と引き出しが多く飽きずに読めた所は良いのだが、個々の要素が消化不良で読後感は中途半端であった。特に看板に掲げている百合要素がラストであまり感じられないのが残念である。

グラフィック

キャラデザ、スチル絵のカオミンさんは初見だったのだが、作品の雰囲気やテイストにばっちり。

その点で評価したが、個人的な話をするとグラフィックはあまり重視する項目ではなく、総合評価への影響は軽微であることを申し添えておく。

百合

百合要素の詳細な感想。ネタバレ注意 要素が皆無ではないが、もっと素材を活かした直球が投げられたのではないかという印象だ。 事前情報からは鈴と有華の話だと思うじゃん。途中良い感じの展開がなかったわけじゃないが、読み終わった後では全く鈴と有華の物語だったとは言えない。なんだかんだで高校の部活動の話という印象が強い。 個人的な百合観を言うと、好き嫌いは激しいのだが、定義を狭めて語るつもりはない。何だったら憎しみや嫌悪であっても描き方によっては百合だと言いたい。とにかく女子あるいは女性二人の関係性を描くという姿勢を評価したい。ただ大前提として特定の二者間の関係性の話だという点は問いたい。一方通行の意思表明、部活などグループでの多対一の関係などを百合だと有難がるほど懐は広くない。その点で本作の百合要素は弱すぎる。 有華がやって来て、最初は鈴との関係性のみが焦点なのかと思ったら結局他のメンバーの課題とリンクする形で絆が深まるというのは、言葉は悪いが、面白みのない展開だった。 真弥の立ち位置も日和った印象がある。担当回付近まではシリアスで先が読めなかった。そのままシリアスに振れば三角関係でも当て馬でも重要な役を振れただろうに、結局は過激な発言をキャラクターの一言で片付けられるようなコメディ担当に落ち着いてしまった。シリアスな百合を期待している層からすれば何の面白みもなく、関係性に波風が立たないように日和った結果としか思えない。 累と麗子は良いコンビ風だが具体的なエピソードに乏しく評価しようがない。 小夜子と灯音はエス関係に心中と古典の王道といった風情だが、回想で断片的に出るだけでたいして心を揺さぶられるものではなかった。また、それがホラー展開の元凶なんだから純粋に楽しめるようなものではない。 結局雰囲気が良いだけに期待して読み進めたは良いものの、これといった見どころがないまま終わってしまった。

ホラー

ホラー要素の詳細な感想。ネタバレ注意 別にホラーは好きじゃないし一家言あるわけでもないんだが、バランス良くないなとは思った。 ゲームシステムとしては一本道で死亡エンドの分岐があること自体は別に良いのだが、落差が激しい。 1周目はそんなシステムとは知らず、良い感じに正解の方を選んでいたが、15幕で初めて失敗の方を選んでも、漠然とそういうシステムなのかとは思った。 その後は最後まですんなり進んで、クリア後のエクストラメニューで自由に章選択できる時点で複雑な分岐はなく死亡エンドの分岐だけというのは理解した。 そうなると後は単なる回収作業で、選ばなかった方を確認していったわけだが、えげつない死に方してるなという感想しかない。 結局正解なら少し怖い思いをするくらいで大きな実害なく、不正解なら死亡という両極端。キャラクターの持ってる危機感と選択肢の結果が見合ってない気がする。 ゲーム側の都合や作法で死亡エンド入れただけな感じで、ストーリー面で選択肢の必要性が感じられなかった。 改めて別にホラーが好きなわけではないし、どういうのが良いというのはないのだが、本筋でホラー要素がエッセンスとして効いているように感じられない点は残念に思う。

後書き

総合で普通と言いながら、個別の論点では残念な部分ばかりあげつらってしまった。そこはただでさえ少ない百合ゲーに対する期待の裏返しということで。

実際のところ、発売前に公式ツイッターでシナリオライターの情報が出ていたが、所属のホームページ見ても主にスマホゲーの実績しか無いし、百合好きなんて言われても全く安心材料にならないし、もっと酷評する結果となる可能性も考えていたが、まずはプレイしてみないことにはと思って買ったのだった。

結局引き合いに出した「アカイイト」や「アトラク=ナクア」を超えるほどの作品とは言えないが、悪い方の予想は当たらなくて良かった。少なくともつまらなければ容赦なくプレイを止めて積むか、音声聞かずに読み飛ばす自分が最後まで音声込みで読めただけでも買って良かったと言える。

最後、別に声優目当てでゲームを買うこともないので評価項目に入れていないが、おまけとして触れておこう。

補足

名前知ってる声優は大坪由佳さんと河野ひよりさんくらいだったが特にファンでもなんでも無い。全体的に特に引っかかりを覚えることもなかったので、皆はまり役で良い演技だったということだろう。あえて俗っぽいことを書くと有華役の望月麻衣さんはすごく沢城みゆきさん感があった。つまり良い声だし今後に注目かな。